大浦天主堂(日本二十六聖殉教者聖堂 L’Eglise des Vingt-six Martyrs Japonais )は、日本に現存する最古のカトリック教会です。
しかし近代日本において、開国後に建てられた最初の教会堂は、横浜の旧外国人居留地の横浜天主堂(聖心聖堂 L’Eglise du Sacre-Coeur )でした。

パリ外国宣教会のジラール神父(Prudence Seraphin-Barthelemy Girard)は、琉球王国・那覇に滞在し日本語を習得しながら、日本の開国を待っていました。
日本教区長に任命されたジラール神父は、駐日フランス総領事ベルクール(Gustave Duchesne de Bellecourt)の通訳兼総領事館付司祭という肩書を持って、1859年9月6日に日本入国を果たしました。
江戸に滞在後、横浜に移り、外国人居留地80番(現山下町80番地)に土地を確保し、同宣教会のムニクウ神父(Pierre Mounicou)と共に横浜天主堂の建設に着手しました。
天主堂は1861年11月末に竣工し、献堂式が執り行われたのは1862年1月12日でした。

創建当時の横浜天主堂は、正面のポーチにローマの神殿のような列柱が並び、正面の外壁には「天主堂」の3文字が付されていました。この建物が完成すると、たちまち日本人の興味を惹きつけ、大勢の見物人で溢れたと言います。

資料提供:神奈川県立図書館デジタルアーカイブ

居留地外国人のために建設された教会とはいえ、開国後における日本初建立となった記念すべき横浜天主堂は、現存していません。
その時代、防火設備不足などの理由から、横浜天主堂付近ではたびたび火災が発生していたと言います。当時、火消しの手段としては破壊消防が主流でした。
1870年1月には、司祭館付近より出火した火災時に、天主堂の建物はその多くを失っていたと考えられます。この火災で残ったのは、柱と屋根のみであったそうです。
補強工事を含む改築が行われた聖堂は、1906年に旧居留地(山下町)から山手町に移転しました。

横浜天主堂に次いで、およそ3年後、長崎に大浦天主堂が建設されました。

この復元図は、古写真やスケッチ、わずかな記録から作成した、創建時の大浦天主堂です。
創建時の床面積は、現存する増改築後の建物に比べ、半分ほどでした。
塔頂に十字架が立てられた大小3基の塔が聳え、尖塔アーチ形と呼ばれる洋風の窓、内部にはリブ・ヴォールト天井が採用されていました。
ヴォールトというのはヨーロッパ教会建築の基本構造の一つですが、そもそもヨーロッパで構造体に用いられるのは石材でした。
開国後間もない日本には、教会はもとより洋風建築物すらほとんどなかった時代です。ましてやヨーロッパとは風土が異なる日本で、限られた建材や技術で完成させなければなりませんでした。
創建時大浦天主堂の構造体、外壁、屋根などには、日本古来の部材と技法が用いられました。
大浦天主堂の歴史」で触れたように、外国人司祭と日本人の職人たちが苦心を重ねた結果、それぞれの文化や技術が融合した建築物が出来上がりました。

大浦天主堂の完成後、やはり横浜と同じく、周辺に暮らす日本人たちは好奇心を持ってこの教会を訪れます。そのような中に、禁教下に絶えたと思われた潜伏キリシタンが紛れ、信仰を告白したことから、大浦天主堂は宗教史における奇跡の場となりました。

日本の開国以来初めて建設された横浜天主堂と、それに次ぐ大浦天主堂の献堂時の姿を見てきました。最後に、建設直後から現在に至るまでの、それぞれの変化に触れておきます。

横浜天主堂は、前述した火災の間接被害の後、4年ほどをかけて煉瓦壁に改装されました。
1906年に旧居留地(山下町)より山手町に移転、双頭を持つ堂々とした聖堂が建設されましたが、1923年の関東大震災によって崩壊しています。
10年後の1933年、コンクリート造の聖堂が完成して、現在に至ります。

大浦天主堂は1868年頃までに、2基の小尖塔が撤去されていたことが古写真から推察されており、したがって復元図のような姿をしていた期間は、ほんの数年間でした。
小規模な改築としては、上記の他、脇祭壇奥に祭具室の増築、雨仕舞の悪さの補修などが行われたとみられています。
禁教解除後には信徒増加のため増改築が計画され、1879年に大規模な工事が行われました。
その工事では、平面比較図の通り、創建当時から柱などの位置を変更することなく、身廊部を維持したまま全方位に拡張する増改築でした。
この時から現在に至るまでは、変化した箇所はほとんどありません。
創建時とは異なる外観を持つ大浦天主堂ですが、聖堂の中心となる空間からは、わずかながら当時の様子を感じることができます。

その他の改築や現在までの経緯については「大浦天主堂の歴史」をご覧ください。

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